AI Transformation(AX)徹底解説 生成AIでDXを超える企業変革を実現する〜AX推進における重要ポイントと3つの落とし穴〜
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はじめに
近頃、企業経営においてAI Transformation(AX)が注目を集めています。特に企業の競争力強化において、AIの戦略的活用が重要な差別化要因となりつつあります。
本記事では、これまで20社以上の大手企業様の支援を通じて蓄積された弊社の知見から、AX推進における重要ポイントと3つの落とし穴について解説します。
また、AXの具体的な導入ステップや実践例も紹介しているので、AIを活用した企業変革をご検討中の方は、ぜひ最後までご一読ください。
なお、本記事の内容は弊社YouTubeチャンネルでもご視聴いただけます。Algomatic代表の大野とAXカンパニー責任者の鴨居による対談形式で、解説をお届けしていますので、ぜひあわせてご覧ください。
AI Transformation(AX)とは
AI Transformation(AX)とは、企業がAI技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを根本から刷新する取り組みです。単にAIツールを導入するだけではなく、組織文化や働き方まで含めた包括的な改革を目的とします。
最近では多くの企業に「AX戦略室」や「AX推進部」が設置されるなど、AXは単なる一過性のトレンドではなく、ビジネスの持続的な成長を実現するための必須戦略としての地位を築きつつあります。

AXとDXの違い
DXとの最大の違いは、AXが人間の思考や曖昧な判断を必要とする業務までを自動化できる点にあります。LLM(大規模言語モデル)の登場により、これまでのDXでは実現できなかった「業務の全自動化」が可能になりました。
従来のDXで自動化が進んだのは、請求書の発行、勤怠管理、経費精算、在庫管理、顧客情報の登録といった明確なフローとルールに従えば処理できる業務が中心でした。これらの業務はRPAや業務システムによって比較的容易に自動化・効率化が進められてきました。
一方で、「人による思考や発想力が必要」「状況に応じた曖昧な判断が求められる」業務については、人間の介在が不可欠であり、これがDXの限界でした。

そこで画期的な変化をもたらしたのが「LLM(大規模言語モデル)」の登場です。これにより人間の思考や曖昧な判断を再現できるようになり、「思考や曖昧な判断」が含まれる業務も含め、End-to-endでの自動化が可能になりました。
このように、DXでは実現できなかった「業務の全自動化」を視野に入れられるようになったことがAXの最大の特徴であり、重要なポイントです。
AXの2つのパターン
AXには「人間の知的単純労働の代替」と「人間ができていなかったことの実現」という2つのパターンがあります。

人間の知的単純労働の代替
AXによってこれまで人間でしかできないと思われていた業務を、システムに置き換えることができます。
知的単純労働とは「業務内容はおおよそ定型化されているものの、細かい判断や意思決定は経験のある人間に依存している」業務を指します。例えば、問い合わせ対応の自動化やメールの仕分け・返信、広告審査、見積書作成などが該当します。
これらの業務は明確なルール化が難しく暗黙知になりがちなため、特定の人にしか対応できない属人化を招きます。同時に担当者にとっては創意工夫の余地も少なく、モチベーションの維持も難しい状況でした。
生成AIの登場により、こうした知的判断を要する業務も自動化が可能になっています。
例えば、AIによる見積書作成業務の自動化です。大型特注品のような受注単価の高い案件では人間による深い思考が必要ですが、標準部品製造などで高頻度に繰り返される見積業務では、過去の経験に基づく価格設定や条件提示といった知的判断が必要でありながらも、ある程度パターン化できる作業です。
AIがこうした判断をサポートすることで、材料コストや工数、納期などの複合要素を考慮した見積作成が効率化され、熟練者の経験に依存していたプロセスが標準化されています。

人間ができていなかったことの実現
AIの活用方法を検討する際、一般的には「人の仕事をどのように代替するか」という観点から発想しがちですが、実際には「これまで人間には実現できなかったことをAIに実行してもらう」方がより大きなインパクトをもたらすケースが存在します。
その例として、当社の営業AIエージェントサービス「アポドリ」が挙げられます。
営業AIエージェント「アポドリ」は、ターゲット企業のリストを入力するだけで商談獲得を行うサービスです。
例えば通常、担当者が営業先のリサーチを行う際、過去すべてのプレスリリースを把握したり、キーマンのインタビュー記事などを全て読み込むことはほぼ不可能でしょう。
一方で、アポドリは数百〜数千社の過去のIRや記事などすべての公開情報を分析し、営業先ごとに1to1のメッセージを作成して、最適なアプローチを提案・実行することができます。
これは単なる業務代替ではなく、人間が本来実現したかったが不可能だった「網羅した情報収集に基づく営業活動」を可能にする革新的なAXの実践例です。

AX導入の4つのフェーズ
生成AI導入に向けた取り組みは、以下の4つのフェーズを通して効果的に進めることができます。

1. 活用検討フェーズ
このフェーズでは自社の業務における生成AI活用の可能性を探索します。経営層から現場担当者までの幅広いヒアリングを通じて、業務効率化や顧客満足度向上などの具体的な課題を特定します。
また、社内に存在するデータの棚卸しを行い、AIで解決できる課題と必要なデータの対応関係を明確にします。
2. トライアルフェーズ
小規模なPoC(概念実証)を通じて、AI技術の効果と課題を実証的に検証します。ここでは、実際のデータを用いてAIモデルの構築・評価を行いながら、業務プロセスへの組み込み方も同時に設計します。そして、トライアルの結果を踏まえて投資対効果を検証し、本格導入への判断材料にします。
3. 開発・運用構築フェーズ
PoCの結果を踏まえて本格的なAIシステムを開発します。既存システムとの連携を含め、データ連携の自動化や品質確保のための仕組みを構築していきます。
また、実際の業務フローにシステムを段階的に組み込みながら、利用者からのフィードバックを収集して継続的な改善を行います。
4. 内製化・運用移行フェーズ
ここでは、持続可能なAI活用のための社内体制を整備します。
社内でAIエンジニアやデータサイエンティストの育成・採用を進め、外部依存からの脱却を図ります。また、定期的なKPIモニタリングを通じて効果測定を行い、課題を特定して改善策を実施するPDCAサイクルを整えます。
これらの4つのフェーズは独立したものではなく、相互に関連し合い、必要に応じて前のフェーズに戻って再検討することもあります。最終的には、AIが企業文化や業務の一部として定着し、継続的な価値の創出につながる体制を目指します。
AX推進における3つの落とし穴

実際にAXの推進を進める際に陥りがちな3つの重大な落とし穴について解説します。これらを事前に理解し、対策を講じることで、AX導入の成功確率を高めることができます。
AXのプロセスを全て外注してしまう
DXでは、業務アプリケーションの開発やシステム導入はSIerやITベンダーへの外注が一般的でしたが、AXにおいては生成AI基盤やローコードツール(例:Difyなど)を組み合わせることで、現場主導でのツール構築が十分可能です。
「AIは難しいから外注しよう」という発想はスピードと柔軟性の両方を失わせ、業務知識を持つ現場メンバーのプロジェクトへの不参加は「使われないAI」を生み出します。AXには、現場メンバーの知見を最大限に活かしたアプローチが不可欠であり、外部知見を取り入れつつも自社主導で進めることが成功への鍵です。
✔ ポイント:まずは簡易な生成AI活用基盤を構築し、社内の現場メンバーとともに内製で進めていくことがAX成功の第一歩です。
従業員のAIリテラシーの向上を優先してしまう
最近では、全社員への生成AIのリテラシーやプロンプトスキルの教育を行う企業が増えていますが、現実的には成功しないケースが大半です。
現場の従業員は日常業務の多忙さから、AIプロンプトの最適化に時間を割くことが難しいのが実情です。
より効果的なアプローチは、ユーザーがAI活用を意識せずとも自然に生産性が向上する仕組みを構築することです。AIツールは現場の実態に合わせて設計し、無理なく業務に溶け込ませることが非常に重要です。
✔ ポイント:「AI の存在を意識させない UI/UX」「ファイル等をアップロードするだけで出力が得られる仕組み」など、"非AI人材にも優しい体験設計"が重要です。
AIの導入をPoCで終わらせてしまう
AXをPoC(概念実証)で終わらせてしまう企業が多くあります。
しかし、AXの本質は、単なるAIツール導入ではなく「業務のあり方そのものをAI前提で再設計すること」にあります。多くの企業がPoCで終わる理由は、AIと人間の役割分担や業務フローの見直しという本質的な変革に踏み込めていないことが原因になっているケースがよく見られます。
生成AIは「完成形から使う」より「運用しつつ段階的に改善する」アプローチに適しています。完璧なデータ整備や要件定義を待つのではなく、短期間でプロトタイプを作り、現場のフィードバックを基に継続して改善していくアジャイルな進め方が効果的です。
✔ ポイント:AXは"ITシステムの導入プロジェクト"ではなく、"業務設計そのもののアップデート"です。PoCはゴールではなく、現場とともに改善を続けるスタート地点として位置づけましょう。
AXの実践例

ここでは、先に解説した「見積もり作成の自動化」や「アポドリ」に加え、さらに多様なAXの実践例をご紹介します。
1. 薬機法チェックの自動化
健康食品や医薬品の広告における薬機法違反チェックをAIで自動化した事例です。従来は専門知識を持った担当者のみが行えた薬機法チェックは、完全なルールベースだけでは判断できない典型的な知的単純労働でした。
このソリューションでは、文脈を考慮した自然言語処理と生成AIを組み合わせ、過去事例を参照しながら高度な薬機法のチェックを行います。
広告分野での違反チェックという専門性の高い業務をAI化することで、曖昧な表現の見逃し防止、修正工数の削減が可能になり、担当者の負担軽減と法的リスクの最小化を同時に実現しています。
【解説記事】

2. AIアバターによる接客業務の自動化
接客業が直面する「インバウンド対応」「スタッフ不足」などの課題をAIアバターによって解決するAXの事例です。
このAIアバターは単純なルールベースではなく、質問の意図を分析して最適な回答を生成します。また、多言語に対応させることで外国人客にも適切な案内をすることができます。
飲食店の席案内、ホテルのチェックイン、小売店の商品説明など、業種を問わず活用でき、人手不足解消と顧客体験向上を同時に実現できます。
【解説記事】

3. 組み立て作業の評価の自動化
製造業の品質管理において「人間ができていなかったこと」をAIで実現した好例です。
このシステムは、作業動画をリアルタイムで解析し、作業手順書に基づいて各工程を自動評価します。これまで人間の監督者が複数の作業者を常時監視することは物理的に不可能でしたが、AIは24時間体制で一貫した基準による評価を実現します。
デモでは、ボールペン組立工程の評価を30点満点で数値化し、具体的な改善ポイントをフィードバックします。これによって、効果的な個別指導が可能となり、製造現場全体の品質向上と標準化を実現します。
【解説記事】

さいごに
本記事では、AI Transformation(AX)について、DXとの違いから具体的な事例、推進上の課題まで幅広く解説してきました。
これまでのDXは、定型業務の効率化や自動化を目的としてきましたが、生成AIの登場により、人間の思考や判断を含む業務までも自動化・再構築することができるようになりました。
つまりAXは、単なるテクノロジーの導入ではなく、企業の意思決定や組織のあり方を根本から変える"経営改革"そのものになりつつあります。
弊社では、今回紹介したAXを通して、お客様のニーズに合わせた最適なソリューションを提供し、AI活用による企業変革をご支援いたします。AIによる課題解決をご検討中は、ぜひお気軽にお問い合わせください。