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はじめに
製造業において、製品の品質管理は企業の競争力を左右する重要な要素です。特に、人手による組立作業では、作業品質の維持・管理が製品の質に直接影響を与えます。
しかし、従来の目視による品質管理には多くの課題があり、より効率的で正確な手法が求められています。本記事では、弊社が開発した生成AIによる組立作業の自動評価システムを紹介し、製造現場の品質管理の効率化について実際のデモを交えて解説します。
製造現場における品質管理の現状と課題
現在の製造業における品質管理は、人手による監視に大きく依存しています。この従来型の手法では、人件費の増加や評価基準のばらつき、リアルタイム管理が困難といった課題があります。さらに、少子高齢化による人材不足や技術継承、外国人技能実習生の増加といった背景が、これらの課題をより深刻化させています。
熟練した有識者の不足
各工程の作業を適切に監視するためには、豊富な経験と専門知識を有する有識者が不可欠です。しかし、こうした人材を十分に確保することは容易ではありません。また、有識者の育成には長い期間と相応のコストが必要です。特に、熟練技術者の高齢化が進む一方、新たな人材の輩出や育成が思うように進まず、有識者不足が深刻化しています。
正確かつ公平な評価の限界
従来の人手による監視では、監視者個人の経験や判断基準によって各工程の評価にばらつきが生じやすくなるため、「良い・悪い」という定性的な判断に留まりがちであり、定量的な評価指標の設定が難しいです。最近は外国人技能実習生が増加しており、言語や文化が異なることによる解釈の違いも加わり、さらに複雑化しています。
リアルタイムでの管理の難しさ
従来の品質管理手法では、作業の問題点をリアルタイムで検知することが難しく、業務改善に必要なデータの収集・分析にも時間を要するのが現状です。結果として、品質上の問題が発生してから対策を講じるまでにタイムラグが生じてしまい、迅速な改善ができず、同様の作業ミスが継続して発生するリスクが高まります。
解決策:生成AIを用いた組み立て作業の自動評価システム
これらの課題を解決するために、弊社では生成AIを活用した「組立作業の自動評価システム」を開発しました。このシステムは、作業動画をリアルタイムで解析し、あらかじめ用意した作業手順書に基づいて各作業者の作業工程を自動で評価します。これにより、人による監視を必要とせず、作業の正確性や速さ等の基本事項に加え、細かな動作まで確認することが可能です。このシステムの主な特長は以下の3つです。
定量的な自動判定
事前に設定した評価基準に基づき、作業の正確性や速さ等を数値化して判定します。これにより、作業品質の「見える化」を実現し、各作業者への具体的なフィードバックと改善目標の設定が可能になります。
一貫性のある評価
生成AIによる評価は常に同じ基準で実施されるため、従来の課題の1つであった監督者による評価のばらつきがなくなります。これにより、作業品質の標準化と公平な技能測定が実現し、さらには評価基準の変更にも柔軟に対応できます。
リアルタイムでの確認
作業動画のリアルタイム解析により、問題点を即座に検知し、その場での改善指導が可能となります。従来のように作業完了後の振り返りを待つ必要がないため、同じミスを繰り返すことなく、作業品質を継続的に改善することができます。
デモ:ボールペン組立工程における品質管理での活用
先ほど説明した弊社開発のソリューションである、生成AIを活用した組立作業の自動評価システムの具体的な活用例として、ボールペン組立工程の品質管理における活用例を紹介します。
デモの概要
今回のデモでは、熟練度の異なる3名の作業者がボールペンの組立作業を実施する動画を分析対象として用意し、作業内容を30点満点で評価する内容となっています。具体的には、6つのステップで構成される作業手順書を事前に用意し、その作業手順通りに各工程がきちんと行えているのかについて評価しています。
分析対象としたサンプル動画
ボールペンの組立作業工程
- 部品確認:ペン本体、インクカートリッジ、スプリング、ペン先部品、キャップがあるかの確認
- インクカートリッジ準備:インク先端の汚れや詰まりがないかの状態確認
- スプリングの取付:インクカートリッジへのスプリング装着と向きの確認
- 本体への組込み:インクカートリッジとスプリングの挿入とペン先部品の取付
- キャップの取付:クリップ付きキャップの装着
- 動作確認:ノック機構の動作確認(3回)や試し書きによるインクの出具合・スムーズな書き心地の確認
デモの結果
初級者:
総合評価は7点であり、非常に低いことがわかります。各作業手順の評価を見てみると、特に「部品確認」「インクカートリッジ準備」「キャップの取付」「動作確認」の3つの工程が全て0点あるいは1点であり、これらの工程に関する知識が不足している可能性があります。この作業者にはボールペンの組立作業全体だけでなく、特に先ほど挙がった4つの工程に関してサポートすることで、技能向上が期待できることが示唆されます。
中級者:
総合評価は17点であり、基本的な作業はおおむね実施できています。しかし、各作業手順の評価を見てみると、「本体への組込み」と「動作確認」がそれぞれ2点と1点であることがわかります。そのため、この作業者には**「本体への組込み」と「動作確認」の工程について重点的に指導**することで、上級者レベルになれることが見込めます。
上級者:
総合評価は26点であり、ほぼ完璧な作業が実施されています。各作業手順の評価を見てみると、「インクカートリッジ準備」と「スプリングの取付」でわずかな改善点があるものの、その他の工程はスコアも満点と非常に高い精度で実施されており、製品品質も十分であることが確認できます。
このように、弊社の自動評価システムを使うことで、作業者の技能レベルを定量的に評価し、具体的な改善ポイントを可視化することができました。これにより、一人一人の作業者に対して効果的な指導が可能となり、製造現場全体の品質向上の実現を目指せることがお分かりいただけたと思います。
おわりに
本記事では、製造現場が抱える品質管理の課題と、その課題に対する解決策として弊社が開発した「組立作業の自動評価システム」について開設しました。人手に依存した従来の品質管理には様々な課題がありますが、弊社の自動評価システムは生成AIを活用することで、作業動画をリアルタイムで解析し、定量的かつ一貫性のある評価を実現します。ボールペン組立工程でのデモを通じて、異なる熟練度の作業者の技能レベルを数値化して評価し、具体的な改善ポイントを明確化できることがお分かりいただけたかと思います。
弊社のAI Transformation(AX)事業部では、今回説明した製造現場での品質管理の事例だけでなく、生成AIを活用した様々な業務効率化の支援を行っています。貴社のニーズに合わせた最適なソリューションを提供し、AI活用による業務変革(AX)をサポートしますので、お気軽にお問い合わせください。